INTERVIEWインタビュー

TOPインタビューサウナで幸せの総量を変えていきたい~hyvä sauna 宮尾英城さん~

サウナで幸せの総量を変えていきたい~hyvä sauna 宮尾英城さん~

サウナで幸せの総量を変えていきたい~hyvä sauna 宮尾英城さん~

かつて名将・真田昌幸氏の治下で栄え、現在15万人以上の人が暮らす長野県上田市。真田氏も往来したであろう旧北国街道沿いに、2023年、フィンランド式プライベートサウナ「hyvä sauna(ヒュバサウナ)」がオープンしました。「サウナで幸せの循環を生み出したい」と熱く語るオーナー・宮尾英城さんとは、いかなる人物か。そして、どのようにしてサ道へ足を踏み入れたのか、浅間サウナラインのサウナー阿部が話を伺いました。

拳1個分、天井を詰めた男

阿部:本日は、上田市出身のサウナ人、宮尾英城さんにお話を伺います。まずhyvä saunaのコンセプトを聞かせてください。

宮尾さん:とにかく「ととのう場所」。心身がととのい、人間関係がととのい、ついでにランドリーで洗濯物もととのいます(笑)。

阿部:心身のととのいに対するこだわりから聞かせてください。

宮尾さん:開放的なアウトドアサウナが大好きなので、最初は屋外に小屋を建てるという選択肢を考えました。でもここは住宅街だから、日常の中で最高のサウナ体験を提供できるマチナカサウナを目指そうと、発想を転換したんです。

阿部:別の方向性を目指したんですね。

宮尾さん:開放感とは真逆の密閉感を追求し、完全魔法瓶サウナを作りました。ヒノキとモルタルのハイブリッド構造によって、外気温が零下になっても熱が一切逃げないビルトインサウナです。

阿部:天井の高さも独特ですね。平均的な座高より拳1個分上げる天井高が主流になっている中、hyvä saunaは座高ギリギリ。hyvä saunaを紹介するときは、「拳1個分詰めた男が上田にいる」と話しています(笑)。

宮尾さん:拳1個分詰めた男!パンチの効いたキャッチコピーなのでInstagramにも載せました。私は比較的背が高いので、自分の座高にぴったり合わせておけば、他の人が入ったときに少し空間が生まれるのではないかと。

阿部:あとは、サウナから水風呂、外気浴までの動線が、サウナーのツボを心得ています。

宮尾さん:水風呂から外気浴に入るときが一番のゴールデンタイムだと思っているので。水風呂を出たら何も考えず、いかに早く横になって目をつぶれるかが肝だと思い、水風呂を屋外に設置しました。

阿部:水風呂にもこだわりが?

宮尾さん:チラー(冷却水循環装置)を入れて、温度調節を徹底しています。100%バチバチにととのうことが、hyvä saunaの推しポイントです。

ととのいの原点

阿部:宮尾さんのととのいの原点は?

宮尾さん:よく山菜採りにでかけるのですが、山中でさんざん土や虫とふれ合うので、温泉で汚れを落として帰るのが定番でした。

阿部:わかります。

宮尾さん:6年位前、山菜採りの帰りに戸倉温泉の万葉超音波温泉に立ち寄ったんです。47度位のあつ湯に浸かった後、水をかぶって休憩していたら「めっちゃ気持ちいい!」って。

阿部:ととのいの入口は、サウナじゃなくお風呂だったんですね。

宮尾さん:15歳の頃に渡米して日本のお風呂文化から離れていたこともあり、それが人生初のととのい体験。「お風呂でこんなに気持ちよくなれるなら、サウナだとどうなる?」という探究心が湧いてきて。

阿部:それでサ道へ?

宮尾さん:入ってみたら案の定、お風呂+水風呂より、サウナ+水風呂+外気浴の方がすべてにおいて上位でした。「これやばい!」とハマってしまいました。

阿部:では、コンセプトの2つ目、人間関係のととのいについて教えていただけますか。

宮尾さん:人間関係をととのえるには、コミュニケーションが生まれる場を作るのがいいんじゃないかと。誰しも「話してみたい人がいるのにきっかけを作れない」「苦手な相手と話してみたら意外と気が合った」という経験ありませんか?

阿部:あるある。

宮尾さん:会話がしやすいサウナなら、人間関係のサポートに最適なんじゃないかと。

阿部:サウナは人と人を結ぶ力がありますね。

宮尾さん:開業前にテントサウナイベントを開催したことがあるんです。ガイドラインやルールを設けたわけでもないのに、初対面同士譲り合いながらちゃんとととのって、まるで昔なじみのように仲良くなっていました。

阿部:サウナならでは。

宮尾さん:サウナ愛という共通点があるだけですぐ仲良くなれるんですから、サウナは偉大ですよ。

阿部:そのイベントがきっかけで、人間関係をサポートできるサウナを目指したんですね。hyvä saunaにも、会話をうながす仕掛けがあるんでしょうか。

宮尾さん:長時間入れるよう薪ストーブサウナにしました。100度前後に設定してロウリュをしなければ、20分間位おしゃべりしていられます。

阿部:座面も独特ですよね。

宮尾さん:一般的に、全員が同一方向を向いて入るサウナが多いと思いますが、hyvä saunaは顔を合わせて入れるよう座面の向きをランダムに変えています。メンテナンスは面倒ですが、コミュニケーションが生まれる仕掛けづくりを設計士と一緒に考えました。

開業に向けて乗り越えた壁

阿部:設計時に苦労した点は?

宮尾さん:一級建築士に素人の自分が意見するなんておこがましくて、最初はおまかせ状態でした。建築士さんの問題ではなく自分の問題だったんですけれど、意見を言えるまで時間がかかって苦しんだ時期もありました。

阿部:葛藤があったんですね。

宮尾さん:でもその人だってサウナが専門領域じゃないし、自分がコミットしなければと思って。「建築士を信じる」という言葉に逃げて関与しないのは違うんじゃないかと。「最高」と思えるサウナでなければお客様に勧められないし、仕事が嫌になりかねない。

阿部:そう思ってからスイッチが切り替わった?

宮尾さん:完成してから文句を言っても遅いから。その壁を越えてからは、木材の選定に始まりすべてに関わったので、建築士と一緒に作り上げた感じです。

阿部:カウンターにもコミュニケーションを生むための仕掛けがあるんですか?

宮尾さん:サウナーにとっては、サウナに入って、飲食して、帰って、寝て起きるまでがサウナだと思うんです。サウナの後に飲んで食べておしゃべりできるよう、カウンターは必要でした。

阿部:私もこのカウンターでクラフトソーダを飲みながらおしゃべりしていると、見知らぬ人とも自然と仲良くなりました。

宮尾さん:あのクラフトソーダは、松本市生まれの手作りシロップがベース。植物系やフルーツ系をブレンドして個人的に楽しんでいましたが、試しに会員さんに提供してみたら好評だったので、メニューに加えたんです。

阿部:サウナ飯も人気ですよね。

宮尾さん:今日も完売の人気ぶりです。

上田市民総サウナー化計画

阿部:サウナや飲食を媒介に、「人間関係がととのう」サウナ。この発想のきっかけは?

宮尾さん:開業を決めた頃は、そんな発想はなくて。家族全員サウナ好きだし、「サウナ開くのおもしろいんじゃない」位の軽いノリだったんです。

阿部:それが2年程前?

宮尾さん:そう。タイミング的にはコロナ禍でした。学生の頃留学で海外に行った経験がある私にとって、外に出れない、人とコミュニケーションが取れない状況は、人生観を変える大きな出来事でしたね。

阿部:なるほど。

宮尾さん:時間の余裕もできたので、サウナに入りながら自分の人生を振り返ってみたんです。そうしたら、ふと「このままの人生だと、俺の葬式にはたぶん誰も来ないな」って。

阿部:振り返り方が深いですね。

宮尾さん:自己中心的に生きてきたことに気づいちゃったんですよね。だからこれからは、もっと周りの人に寄り添って、互いの人生に影響を与え合う生き方をしたいと思いました。じゃあ、人生を変えるための手段は?と考えたときに、「あ、サウナだ」と。

阿部:つながった。

宮尾さん:サウナで人と関わって、サウナで人の幸せを作り出せれば、天職に違いない

阿部:サウナ開業に対する意識が変わったんですね?

宮尾さん:自分に向いていた矢印がようやく外向きに変わった。自分一人がハッピーな状態より、みんなで幸せになった方が遥かに幸せ、そんな単純なことに気付いていなかったみたい。

阿部:みんなが幸せになると、幸せの総量が大きくなりますね。

宮尾さん:その気付きがなければ、今のようなフレンドリーなサウナにはならなかったと思います。お客様というより、遊びに来てくれた友だちを迎える感覚なんですよね。

阿部:コミュニケーションを大切にされてますね。

宮尾さん:コミュニケーションを通じてパーソナルな部分までわかるから、一人ひとりの好みに応じてカスタマイズしたサウナ体験を提供できるんですよ。

阿部:ととのいそう。

宮尾さん:リピートしてくださると、「前回をさらに上回るととのいを提供しよう」というモチベーションにつながって、人体実験のように日々「ととのい」を研究しています。良い循環が生まれているなと感じます。

阿部:サウナ業界は横のつながりも強いですよね。

宮尾さん:知り合いが運営するサウナでトラブルがあったときに、「県外から来てくれたお客さんをなんとかととのえたい」と、うちを紹介してくれたんです。

阿部:信頼の証ですね。

宮尾さん:サウナを運営する人が薦めてくれるなんて、本当にうれしかったです。フラットなサウナ業界には、ストリート文化に近いものを感じます

阿部:今後の展望は?

宮尾さん:サウナを通して幸せの総量を増やしていきたいですね。身近な人たちからととのえていき、いずれは上田市民15万人全員をととのえたい。そして上田市をサウナの街として活性化していきたい。

阿部:おぉ!

宮尾さん:サウナでととのうと些細なことはどうでもよくなって心に余裕ができるし、人生の質が上がるじゃないですか。上田市民全員がそうなったら、すごくいい感じの街になるんじゃないかと。

阿部:浅間サウナラインのコンセプトにも通じるものがあります。本日はありがとうございました。

hyvä sauna
website:https://www.hyva-sauna.com/
住所:長野県上田市秋和1110-8
メールアドレス:info@hyva-sauna.com
休業日:不定休
利用可能時間:12:00~14:00、14:30~16:30、17:00~19:00、19:30~21:30(木曜日:終日レディースデー) ※完全予約制

<聞き手>
阿部翔太
地元長野県にUターンし、サウナスタッフとしてサ道に打ち込むかたわら、フリーランスでWEB制作やSNS運用、ブランディング、プロモーション企画などを行う。サウナで身体と心をととのえるメソッドを広めようと活動中。

<photo>杉山亜衣