INTERVIEWインタビュー

TOPインタビュー年間80日トンボの湯へ。サウナを仕事のルーティンに加える理由~サウナー 高橋浩平さん~

年間80日トンボの湯へ。サウナを仕事のルーティンに加える理由~サウナー 高橋浩平さん~

年間80日トンボの湯へ。サウナを仕事のルーティンに加える理由~サウナー 高橋浩平さん~

長野県北佐久郡軽井沢町は、明治時代から国際的避暑地として発展してきました。おもてなし文化が受け継がれてきたこの町で、星野リゾートの社員として活躍する高橋浩平さん。星野リゾートが運営する星野温泉 トンボの湯で、年間80日サウナに入るという筋金入りのサウナーです。しかし、サウナに入る理由は「リフレッシュ」や「疲労回復」ではないといいます。高橋さんはサウナに何を求めているのか、浅間サウナラインのサウナー大北が話を伺いました。

年間80日トンボの湯のサウナに入った男

大北:高橋さんは、浅間サウナラインのサウナーの間で年間80日トンボの湯のサウナに入った男として名が通っています。およそ4日に一度という計算になりますね。日数は実際にカウントを?

高橋さん:1月から12月までカウントして、年末に集計してみたら80日になっていました。

大北:なかなかすごい数ですよ。

高橋さん:うらやましいでしょう。トンボの湯のサウナは露天風呂に併設しているので、四季折々の自然を感じられます。訪れるたび違う表情を見せてくれるのがいいですよね。

大北:樹木が茂る傾斜地に囲まれているから、自然との一体感がすごいですよね。

高橋さん:そうなんです。春は桜、秋は紅葉が見事です。冬の雪見風呂も風情があります。

大北:トンボの湯へはいつ頃から?

高橋さん:15年ほど前、新卒で株式会社星野リゾートに入社してから、ずっと通っています。

大北:15年前からサウナー?

高橋さん:いいえ、温泉好きではありましたが、当時はまだサウナに目覚めてはいませんでした。トンボの湯の水風呂は、白糸の滝を水源とする湯川から天然水を引き込んでいるので、水温が12度前後。「こんな冷たすぎる水風呂に入る意味がわからない。どうやって入ったらいいんだ⁉」って。

大北:目覚めたきっかけは?

高橋さん:5年ほど前、星野エリアの季節ごとの魅力を顧客に伝えようと、市場調査を行ったんです。そこで初めて、トンボの湯のサウナに対する世間の評価を知りました。そこからですね。

大北:5年前というと、日本初のサウナポータルサイトが誕生して、サウナブームが広がり始めた頃です。

高橋さん:トンボの湯のサウナは、そのサイトはもちろん、著名なサウナブログでも、驚くほどの高評価を獲得していました。サウナブームの火付け役となった漫画「サ道」でも、おすすめサウナとして取り上げられていたんです。

大北:外からの評判を聞いて、なんですね。

高橋さん:僕は、温泉目当てでトンボの湯を普段使いしていましたが、10年経ってようやく、「サウナもそんなに素晴らしいなら体験してみよう」と。最初は冷たすぎる水風呂が苦手でしたが、ととのいの境地を知っている同僚から「まだ入れないんですか?」とツッコミを受けながら、粘り強く入り続けました。

大北:顧客に魅力を伝えたいという使命感があればこそですね。

高橋さん:回数を重ねるごとに、水風呂のよさがわかるようになりました。サウナと水風呂、外気浴スペースが露天に集約されているので、余計な動きを挟まないところもいいなと思っています。

目を見開いたままシャキッと外気浴⁉

大北:「80日入った男」にいたるまでに、心境の変化などありましたか?

高橋さん:サウナに対する固定概念が変わっていきました。以前は、疲労回復やダイエット、デトックスのためのツールと捉えていました。それもサウナを楽しむ目的の一つではありますが、僕は頭をすっきりさせるために入っているんだということが、徐々にわかってきたんです。

大北:僕はどちらかというとリラックス派なんですよね。ととのいの向こう側に行きたい一心で入ります。

高橋さん:定石通りに入れば、「ととのい」や「ぐっすり睡眠」を得られることはわかっていますが、僕はあえて全体を30分程度に収めています。少し脈が上がる程度のサウナと、30秒~1分間の水風呂、外気浴というルーティンを2セットから3セット。

大北:ほう、なるほど。

高橋さん:外気浴も目をつむってリラックスするのではなく、目を開いたままシャキッと座って、景色を眺めながら過ごしています。

※トンボの湯近くの小川のほとりで撮影しています。

大北:たしかに目を開いている…。

高橋さん:サウナ室では、仕事の懸案事項が頭の中をぐるぐるめぐっています。

大北:何も考えないとしている人が多い中で、おもしろい!

高橋さん:スマホや本、テレビなどあらゆるメディアからのインプットを強制的にシャットアウトすると、アウトプットが活発になるんです。サウナの中で課題を検討して、1セット目でアクションプランまで導き出せたら、そこで引き揚げることもあります。

大北:ということは、仕事の休憩時間に入ることが多い?

高橋さん:仕事場から近いので、30分サウナに入って戻るとちょうど1時間弱。昼食はおにぎりのような行動食で済ませます。サウナで仕事を忘れるのではなく、サウナでタスクを見つけて午後の仕事で行動に移す、という活用法が定番になっています。

大北:独自のメソッドですね!

高橋さん:サウナは、何もできない環境を強制的に作り出してくれるところがいい

大北:一日の中で仕事のスイッチを切り替えられるのはいいですね。

高橋さん:一日の終わりに仕事を忘れ、疲れを癒すスタイルの方が多数派ですよね。僕は、サウナでスイッチを切るというよりは、加速させる感じ。仕事のルーティンに組み込むスタイルを見出せたことは、自分にとって幸運でした。

五感で感じる美意識

大北:サウナに目覚めてから、トンボの湯以外のサウナへも行くように?

高橋さん:今ではサウナありきで、かつ温泉も良い施設を探して行くようになりました。

大北:トンボの湯に対する新たな気づきはありました?

高橋さん:比較対象ができたことで、トンボの湯に対する高評価の理由がわかってきました。水温が低い天然水の水風呂や景色のよさなど魅力をあげればきりがありませんが、デザイン性の高さに改めて気づかされました。

大北:空間の?

高橋さん:自画自賛のようになってしまいますが、空間デザインが優れていますし、細部まで美意識が貫かれたサウナだと思っています。注意喚起の掲示物も最小限に抑えられていて、集中を妨げるものが極力排除されています。

大北:自分の世界に没入できるんですね。

高橋さん:音に対する気づきもありました。以前は、トンボの湯がジャズサウナとして紹介されていても、「確かに流れているな」くらいにしか思っていませんでした。でも、他のサウナに行くようになると、テレビに意識が向いてしまったり、他の人の話し声が気になったり。

大北:トンボの湯でジャズに意識が向いていなかったというのは、音量が絶妙なんでしょうね。

高橋さん:そう思います。露天風呂の岩から源泉が流れ落ちる音も聞こえるんですよ。水音とジャズの音色が心地よさを演出していたのだと、改めて気づかされました。

大北:視覚的にも聴覚的にも邪魔されない、と。

高橋さん:他のサウナを知るうちに、何気なく通っていたサウナが実は特別な場所だったんだとわかると、より一層愛着が湧いて。「そういえば、ここもスゴイ」と、魅力を次々発見する過程も楽しかったし、誇れる施設だと思います。

大北:観光地化しすぎず、そぎ落としすぎず、計算された施設ですよね。周辺エリアの住民を対象とした優待もスゴイ。

高橋さん:地域の方々と一緒に歩んできた100年企業なので、地元に貢献したいという思いがあります。

大北:自宅のお風呂よりトンボの湯を利用する頻度が高い人もいると聞きます。

高橋さん:ありがたいことです。とはいえ、繁忙期は利用しづらいかもしれません。2022年は大改修のために休業して、常連の方にご不便をおかけしました。

大北:大改修でもプロジェクトに関わりました?

高橋さん:約2カ月の休業期間中、温泉を楽しみに来てくださる宿泊客のために、温泉プールとテントサウナを設置しようという企画が立ち上がったんです。

高橋さん:プロジェクトメンバーではありませんでしたが、アドバイザーとして関わりました。テントサウナの選定やセッティングのアドバイス、はたらクリエイトからウィスクを購入したり佐久市でサウナストーンを調達したり。プライベートでも遊びの中でテントサウナを使っていたので可能でしたね。

大北:サウナーの経験値やつながりを仕事に還元できるなんていいですね。

高橋さん:そうですね。実際に体験しながら「温度や湿度はこうした方がいい」「こういうセットがあるといい」と利用者目線のフィードバックを行いました。顧客満足度向上につながる部分に携われたかな、と。

大北:今回の大改修でサウナは大きく変わりましたか?

高橋さん:天井の照明をなくし、ベンチの下に間接照明を設けました。照明が変わっただけで、まったく新しいサウナに生まれ変わったと言ってもいいくらい。光にも邪魔されず、集中を妨げるものがまったくないので、今のトンボの湯はスゴイですよ。

大北:ホームサウナへの愛を感じます。

サ活はよりディープな方向へ

大北:ご家族ともサウナへ?

高橋さん:これまでは子どもが小さかったので諦めていましたが、7歳になった今は一緒に入れるようになりました。野尻湖のキャンプ場にテントサウナを持参して、水遊びとサウナのローテーションを楽しむこともあります。

大北:自然体験との組み合わせ、いいですね。

高橋さん:オン・オフ問わず生活の中心にサウナがあります。食事や睡眠と同じように「日常」の一部。でも時には、大自然の中で特別なサウナ体験をしたり、ちょっと高級な貸し切りサウナを利用したり、「非日常」でもあるんです。

大北:サウナは常に高橋さんとともにあるんですね。

高橋さん:サウナ以外の趣味はシチュエーションを選びますが、サウナはどのシチュエーションにも紐づいている気がします。家庭でも、仕事でも、自分一人の時間にも、すべてにサウナが関わっています。

大北:今後、サウナーとしての展望は?

高橋さん:仕事外で出会った人やモノ、サービスとのつながりを仕事に活かせたとき、自分の仕事に対する満足度が高まるんです。休日にトンボの湯以外のサウナにもよく行くので、そこで出会った人と協業で何かできれば楽しいんじゃないかと思っています。

大北:サウナで交友関係を広げている?

高橋さん:「サウナブームに関心はあるけれど入り方がわからない」という人の場合、一緒に行くのが一番ですし。人を誘う場合、食事やお酒、お茶などいろいろな選択肢がありますが、サウナは結構深いところまで話せるので、交友ツールとして優れていると思います。

大北:サウナに入ると自分自身の切り替えスイッチが入りますけど、「もう一人の自分」というより「自然体の自分」になる気がします。

高橋さん:めちゃくちゃ自然体ですよね。そもそもサウナに一緒に行く時点で壁を一つ越えているんですよ。心が開いた状態で話ができるという実感があります。

大北:すでに人の輪は広がり始めている?

高橋さん:「信州サウナクラブ」というサークルに入っています。そこでは、ビルダーや運営者といったサウナ好きが集って、かなりディープな会を開催しています。サウナ好きが一堂に会する「LAMPフェス」に出店するなどして、サウナーのつながりをさらに広げています。

大北:サウナーの熱量で何か新しいものが生まれそうですね。

高橋さん:余談ですが、サ活と「ザ活」の組み合わせにもハマっていまして…!ことば通りザリガニを捕って食べる活動です。冷たい川でザリガニを捕ったら、サウナで温まって、ザリガニでサ飯を作る。それが楽しいんです!!

高橋さん提供
高橋さん提供

大北:なかなかにディープですね…。

高橋さん:本当においしいんですよ!!ザリガニ料理はスウェーデンの夏至祭に欠かせないものですし、サウナと組み合わせれば完全に北欧スタイル!今度一緒にザ・サ活しましょう!!!

大北:サ活より高い熱量で語らないでくださいよ~。

星野温泉 トンボの湯
website:https://www.hoshino-area.jp/archives/area/tonbo
住所:長野県北佐久郡軽井沢町星野
電話番号:0267-44-3580
休業日:なし
営業時間:10:00~22:00(最終受付21:15)※7/15~8/31は9:00~23:00(最終受付22:00)

<聞き手>
大北達也
野尻湖のThe Saunaに行ったことでアウトドアサウナに目覚める。給付金をテントサウナにつぎ込み、他の会社の敷地にセルフビルドサウナ小屋を建て始める。アウトドアサウナビギナーをととのいの向こう側に届けることが喜び。