INTERVIEWインタビュー

TOPインタビューエネルギー循環型のサウナが里山荒廃問題の救世主に!?~信州上田アグロフォレストリー・プロジェクト 寺尾雄二郎さん~

エネルギー循環型のサウナが里山荒廃問題の救世主に!?~信州上田アグロフォレストリー・プロジェクト 寺尾雄二郎さん~

エネルギー循環型のサウナが里山荒廃問題の救世主に!?~信州上田アグロフォレストリー・プロジェクト 寺尾雄二郎さん~

長野県上田市の奥座敷、別所温泉は、平安時代の和歌集「枕草子」にも登場する信州最古の温泉地。温泉資源だけでなく、豊かな森林資源や文化財の宝庫でもあります。

この地域の自然と文化を継承しようと、地元有志による事業「信州上田アグロフォレストリー・プロジェクト」が始動。発起人の一人・寺尾雄二郎さんは、サウナ✕仮装という新しい切り口で地域活性化を目指し、このプロジェクトに参加しています。今日もいつもの仮装スタイルでサ活をしている寺尾さんに、浅間サウナラインのサウナーきむが話を伺いました。

チェーンソーを握ったのは、美しい里山を子どもたちに残すため

きむ:今日は侍ジャパンの仮装ですね!※2023年4月取材

寺尾さん:WBCの優勝を祝してね!でもあの日から1カ月以上が経ってしまったので、そろそろ次の仮装を作ろうと思っています。

きむ:急に仮装の話から入ったので、読者のみなさんは驚かれているかもしれません(笑)。まずは寺尾さんの自己紹介からお願いします。

寺尾さん:私は上田市に本社があるメーカーの人事部に勤めながら、仮装とサウナで地域を盛り上げています。仮装は16年前からスタートし、これまで300回以上の仮装を披露してきました。

寺尾さん:最近は、仮装をして行うモノマネアウフグースでみなさんに楽しんでいただいています。

きむ:何度見ても最高です。仮装のお話も聞きたいところですが、今日は信州上田アグロフォレストリー・プロジェクトの一環でサウナを組み込んだ活動をされているとのことで、取材に来ました。

寺尾さん:はい、今日もテントサウナを準備していますよ!

きむ:このプロジェクトの背景の部分からお聞かせいただけますか?

寺尾さん:私は東京出身なのですが、仕事で上田に来てから上田が大好きになりました。ただ、こんなにも里山資源に恵まれているのになかなか活用できていないのでは、と考えていたんです。

きむ:地方が抱える問題の一つではありますよね。

寺尾さん:山を整備できる人が年々減っていますし、このままでは山が荒廃して、子ども世代に里山文化を残せなくなるんじゃないかと…。

きむ:なるほど。

寺尾さん:同じ志を持った仲間と出会い、持続可能な里山の暮らしを後世に伝えていこうと、信州上田アグロフォレストリー・プロジェクトを立ち上げました。

アグロフォレストリーとはアグリカルチャー(農業)とフォレストリー(林業)を組み合わせた造語。林業と農業の並行によって、生態系を維持する森林農業のこと

きむ:具体的にはどういった活動をされているのですか?

寺尾さん:放置されている森林を間伐するなどの整備、さまざまな野菜やハーブを育て収穫するなどしています。森林整備のために、チェーンソー講習を定期的に開催しているんですよ。森林整備に関わる人が着実に増えています。

きむ:素晴らしいですね!しかし今のところ、プロジェクトとサウナとのつながりがよく見えないのですが…。

寺尾さん:いやいや、つながりだらけですよ!

これぞ地域に根付いた循環型サウナのあり方

寺尾さん:今日は、整備されないまま放置された森林の間伐を行っています。

きむ:さきほどから、みなさん手際よくチェーンソーを扱って作業されていますね。

寺尾さん:見てわかるかと思いますが、林の中は真っ暗ですよね。間伐を適宜行わないと、陽の光が森の中に入らないので、草木が育たず、結果的に土壌が弱ってしまうのです。

きむ:間伐された幹や枝がどんどん積まれていきますね。あ、そうか!

寺尾さん:そうです。間伐材をテントサウナの薪として活用しているんです。テントサウナは薪ストーブ。この土地の森林資源を、サウナで活用させてもらえるなんて、これ以上ありがたいことはないと1人のサウナ―として考えています

きむ:整備しているすぐ横でサウナに入るというのも、ユニークですね。

寺尾さん:サウナで使われている薪がどのように供給されているかを知らない人は、結構多いと思うんですよ。誰かが伐採して、乾燥させて、市場に供給するという仕組みを知ると、地域や環境に対する見方が変わります。

きむ:乾燥する期間を考えると、薪作りは1年先、2年先を見据えた仕事ですよね。

寺尾さん:薪を消費するだけでなく、自分が作り手にもなることで、サウナに入ったとき、薪という貴重な資源に感謝感激しています。

きむ:森林整備で汗を流した後、サウナに入れるなんて最高ですね。

寺尾さん:みんなで持ち寄った食材を使い、サウナ飯も作っています。

寺尾さん:水風呂の匂いをかいでみてください。

きむ:ん!?

寺尾さん:硫黄の匂いがするでしょ。別所温泉の源泉を持ってきているんです。

きむ:湯量が豊富だから、こんなこともできるんですね!

寺尾さん:人間は本質的に自然と一体化することを楽しむようにできているんじゃないでしょうか。現代人は癒しにあてる時間が少ない気がします。青空や山の空気を感じながらサウナに入る体験は、QOL向上やウェルビーイング実現にもってこいですよ。

きむ:素晴らしいエコシステムですね。

寺尾さん:里山の保全は、持続可能な社会・循環型社会作りの構築につながっていきます。全国のサウナーたちにもぜひこういった体験をしていただきたいと思います。

ロウリュの蒸し焼き感覚がヤミツキに

きむ:寺尾さん自身がサ道に入ったきっかけは?

寺尾さん:2年前に加藤容崇先生の「医者が教えるサウナの教科書」を読んで、「ちょっとやってみるか」という軽い気持ちで入ったんですよ。

きむ:健康への関心から?

寺尾さん:そうですね。あと、「ととのい」に対する興味。

きむ:実際に体験してみてどうでした?

寺尾さん:手始めに近くの温泉施設で体験して「それなりに気持ちいいじゃん!」と思いましたが、本格的にハマったのはhyvä saunaはたらクリエイトのサウナでロウリュの気持ちよさを知ってからですね。

きむ:ロウリュのあり・なしでは全然違いますよね。

寺尾さん:やわらかいというかしっとりというか。パサパサに乾くサウナとは違う、潤う感じ。蒸し焼きハンバーグのような気分とでも言おうかな。人間の体も芯から温まってやわらかくなる。

きむ:表現が個性的!

サウナで「はなし」、新しいものを受け入れる

きむ:サウナの楽しみ方は人それぞれですが、寺尾さんは?

寺尾さん:自分と向き合うためにサウナに入る方もいらっしゃいますが、私はちょっと違います。サウナは人をつなぐコミュニケーションツールだと思っていて、「人っておもしろいんだな」「人と話すのって楽しいんだな」と実感できる親睦の場。心が開く場所っていうのかな。

きむ:サウナで心身ともにゆるむ感じはわかります。

寺尾さん:私はプライベートサウナ施設やテントサウナに、仲間をたくさん誘って行くんですよ。

きむ:はい。

寺尾さん:「話す」という言葉の語源は、一説によると「放す」と言われています。意味を考えると「離す」とも関係しているのかなとも思います。「話す」ことで何かを手放せば自分の中に空間ができる。そうすると、また新しいものを受け入れられる気がするんです。

きむ:おもしろいですね。

寺尾さん:心を開いている状態でいられればいいけど、日常生活のさまざまな事で閉じてしまっている気がするんですよ。サウナは、心を開く大きなきっかけになると思います。

きむ:寺尾さんは、人とのつながりを楽しんでますね。

寺尾さん:人との関わりを深めていくと、その人が本来持っている無邪気な側面を見てみたくなるんです。どんなにテクノロジーが発達しても、人への関心は尽きないですね。

地域資源を活かしたサウナを生活の一部にすることが目標

きむ:プロジェクトの活動が盛り上がってきていますね。

寺尾さん:森林資源や水資源、ロケーションに恵まれた場所は、上田に限らず県内にたくさんあると思うので、信州上田アグロフォレストリー・プロジェクトで成功事例を作れば、他の地域にも転用できるんじゃないかと思います。

きむ:プロジェクト成功に向けて、具体的にはどのような取り組みを?

寺尾さん:まずはサウナの魅力を多くの人に知っていただくためのイベントを企画しています。

きむ:誰でも参加できるんですか?

寺尾さん:はい。参加者を募って、薪割り+サウナや、サ飯+サウナなどの体験会を行っています。

きむ:楽しそう!

寺尾さん:サウナの魅力は体験しないとわからないですから。先入観をいったん置いて、まずは入ってみて!と。

きむ:イベントの目標は?

寺尾さん:具体的な数値目標はありませんが、里山再生を知ってもらう機会や、都会ではできないサウナ体験を提供したい。いわゆる「コト売り」が目標です。

きむ:まさにサウナ伝道師!

寺尾さん:イベントとは別に、知り合いを100人サウナに連れて行こうと思っています。

きむ:進捗状況は?

寺尾さん:今44人。まあ、達成できるでしょう。

寺尾さん提供

きむ:今後の野望は?

寺尾さん:自然資源を使わせていただきながらサウナでととのうというスタイルを、生活の一部にしたいですね。

きむ:北欧では、サウナは生活に欠かせないものですよね。

寺尾さん:フィンランドでは、サウナを予防医学に取り入れてきた歴史があって、大学にもサウナがあるほど生活に根付いているんですね。上田市も、教育や医療の分野でサウナを活用することが、「健幸都市」実現の近道になるのではないでしょうか。

きむ:生活の一部にするための具体的な案はありますか?

寺尾さん:たとえば、公園にテントサウナが設置されていて日曜の昼下がりはのんびり外気浴を楽しめたり、学校や会社にサウナ施設が当たり前に設置されていたり。そんなビジョンを実現できたら、日本社会も少し変わるんじゃないかな。

きむ:どんな社会を思い描いていますか?

寺尾さん:戦争のない社会。

きむ:大きいですね!

寺尾さん:自分でも言いながら、でかすぎると思いました(笑)。でも、争いのない平和な社会という意味で。

きむ:みんなで心を「はなす」ことができれば…。

寺尾さん:支えあうゆとりが生まれますよね。

きむ:共感する人も増えていくかも。

寺尾さん:そう、波紋のように広がればいいな。まずは自分たちでできることから。

きむ:浅間サウナラインエリアにはユニークなサウナーが多いですしね。

寺尾さん:尖った人のエネルギーが融合すると思いもよらないアイディアが出てきて、めちゃめちゃ楽しいことが起こりますよね。

きむ:そうそう(笑)。

寺尾さん:このエリアで長野県のサウナシーンをリードしたいですね。

きむ:一緒にリードしていきましょう!本日はありがとうございました。

別所温泉テントサウナ(信州上田アグロフォレストリー・プロジェクト)
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<聞き手>
きむくみ
コワーキングスペースのような研究所「Gokalab」にいる人。教育、ライティング、エディターなどを経て、現在は飲食事業・コワーキングスペースの運営に携わる。会社の敷地内にサウナ小屋を作ったことをきっかけに、サウナ関連プロジェクトにもかかわっている。