サウナーがこよなく愛する植物と言えば白樺。フィンランド式サウナでは白樺のウィスクが欠かせない、と言う人も多いでしょう。日本で白樺が多く見られる代表的なエリアのひとつが長野県です。なかでも立科町の白樺高原は、県有数の観光地でもあります。そんな立科町で、白樺を使ったお茶が誕生!飲むとサウナに入りたくなる、そんなお茶を開発した信州白樺クラフト製作所を訪問。広報担当吉田達矢さんに、白樺茶開発にまつわるお話を伺いました。
白樺の保全活動から生まれたお茶!
きむ:白樺の香りがすごいです!
吉田さん:ありがとうございます。
きむ:これはもう飲むウィスクですね。白樺林に迷い込んだような、白樺の葉でウィスキングを受けているような、そんな感覚です。
吉田さん:サウナ―の方に飲んでいただくと、10人中10人が「白樺のウィスクだ!」とおっしゃいますね。
きむ:今日は白樺茶の開発秘話についてお話を伺いたいのですが、改めて信州白樺クラフト製作所についてご紹介いただけますでしょうか。
吉田さん:信州白樺クラフト製作所は、「美しい白樺高原の景色を100年先の子どもたちにも引き継ぎたい」という想いのもと、立科町に広がる白樺の保全活動を行っています。
吉田さん:次世代につなぐためのサステナブルな取り組みとして、「管理・育成→有効活用・加工→販売→還元」という循環サイクルを大切にしています。これまでは、森林整備の過程で出る樹皮を使用したクラフト制作を主に行ってきました。
きむ:信州白樺クラフト製作所さんの白樺樹皮クラフト、優しい雰囲気でステキですよね。
吉田さん:クラフト制作のほか、新たな取り組みも始めています。2023年6月には「第0回:収穫祭ワークショップ」というイベントを開催。一般社団法人ループサンパチとのコラボ企画「白樺ウィスク作りイベント」は、サウナーのみなさんから大変好評をいただきました。
きむ:私も参加しましたが、とても楽しかったです。
吉田さん:そして、2023年1月から始めた新たな有効利用が、白樺の葉を使ったお茶の開発です。
きむ:なぜお茶を?
吉田さん:北海道では以前から白樺の葉がハーブティーとして飲まれているんですよ。それを知った当社代表の渡部が、立科町でもぜひ商品化したいと。
きむ:北海道ではすでにあったんですね。
吉田さん:白樺茶をどのように商品化するか検討していた時に、山野草茶の製造を手掛けている黒姫和漢薬研究所の方と知り合ったんです。
きむ:黒姫和漢薬研究所は、長野県信濃町にある会社ですね。日本の健康茶メーカーの草分け的存在と言ってもいい。
吉田さん:そうです。白樺の葉を使って商品を作りませんか、とご提案をいただきました。
きむ:そこからコラボレーションが生まれたのですね。
吉田さん:これまで手掛けてきたカゴなどのクラフト製品は、人気こそあるのですが、一つひとつ手作りなのでかなりの工数がかかり、販売価格がどうしても高くなってしまいます。
きむ:なるほど。
吉田さん:白樺をより身近に感じてもらうために、手に取りやすい商品を開発したかった。お茶だとお店や飲食店などいろいろな場所で取り扱ってもらえるんですよ。
きむ:手軽で、県外の方向けのお土産にもよさそうです。
吉田さん:製造過程に入る前の乾燥した茶葉は、温度と湿度の管理を徹底していれば、長期間の保存が可能です。そのため、原材料を安定的に供給できるという利点もあります。
焙煎工程がやっと決まったと思ったら、予期せぬ事態が
きむ:お茶を作る上での大事にしたポイントを教えてください。
吉田さん:ポイントは焙煎です。焙煎しない葉だと、香りは豊かなのですが、味にえぐ味が出やすいんです。あと、一番茶はまだいいのですが、二番茶三番茶は渋くて渋くて……
きむ:わたしも以前いただきました。最初はフレッシュで香りも素晴らしいのですが…!
吉田さん:でしょう。ですが、焙煎すると二番茶三番茶も変わらない味で飲めます。タンブラーに入れて持ち歩いても、そのままの味を楽しめます。
きむ:焙煎することでそのような利点があるんですね。
吉田さん:北海道や北欧では、フレッシュな葉や乾燥だけした葉を使うことが多く、焙煎した白樺茶はあまりないそうです。なので、さまざまな植物のハーブティーを手掛け、ノウハウを持っている黒姫和漢薬研究所との共同といえども、焙煎方法や焙煎具合は試行錯誤しました。
きむ:焙煎の仕方で、やはり味は変わるんですよね?
吉田さん:もちろんです。何パターンもの焙煎を試しては、代表の渡部とテイスティングを繰り返しました。
きむ:ひと言で焙煎と言っても、奥深いんですね。
吉田さん:焙煎すればするほど味はしっかりしてきますが、先ほども申し上げたようにその分香りが減ってしまうんですね。味も大事ですが、香りを大事にしたいという想いもありました。
きむ:味と香りのバランス、難しそうです。
吉田さん:あとは、開発を進めていく中でわかったのですが、焙煎された葉が非常に繊細で、少しの刺激で粉々になるんですよ。
吉田さん:当初は、ティースプーンですくってティーポットに入れるスタイルを想定し、缶に入れて販売する予定でした。そうすると、葉の粉が缶の下に1cmくらい残ってしまうんです。そこで、なるべく無駄を出さないために、ティーバッグにしようと決めたんです。
クセがないからこそ広がる、味の可能性!
きむ:そうやってできあがった白樺茶。味についてはどう分析していますか??
吉田さん:味にクセがないんですよ。よい意味でね。
きむ:シンプルでおいしいですよね。
吉田さん:カフェインレスなので、身体に優しいお茶です。
きむ:クセのない味ですと、その分いろいろなシーンで飲める気がします。
吉田さん:まさにそうなんですよ!料理との相性もいいんです。実際、軽井沢のレストランでも、料理とノンアルコールドリンクのマリアージュとして採用していただいています。
きむ:すごく合いそう!サウナーからするとウィスクを連想させるので、サウナとの相性も抜群だと思うんですよね。
吉田さん:サウナ施設さんからもかなりお問い合わせをいただいております。現在、長野県信濃町にある「LAMP野尻湖」の本格フィンランド式サウナ「The Sauna」でお飲みいただけます。
きむ:いいですね!
吉田さん:スタッフさんも白樺茶を飲んだ瞬間に「ウィスクの香りだ!」と。「ととのった後に飲むサウナドリンクとして、非常に相性がいいですね」とおっしゃっていました。
きむ:わかる気がします。
吉田さん:白樺茶はサプリメントではないので、具体的な効能効果というより、飲んでいただいたときにおいしく感じ、心身ともにリラックスしていただけるのが理想です。
吉田さん:数値的なものももちろん大事ですが、感覚的に心地よく感じる部分を大切にしたいですね。
きむ:飲んだ時にどう感じるか、ですね!
吉田さん:しかし、味については課題もあります。
きむ:どのような?
吉田さん:味をどう維持していくか、ということです。当社の白樺茶は、自生の白樺の葉を摘んで材料にしていますので、その年によって葉の状態が違うんです。
きむ:自然のものだからコントロールしきれない?
吉田さん:収穫年によって幅がでるのもクラフト感があって面白いなと思いますけどね。
きむ:確かに!
吉田さん:黒姫和漢薬研究所さんは、さまざまなノウハウをお持ちです。葉の含水率などに合わせて焙煎時間をコントロールして、出したい味と香りに仕上げてくれるそうです。さすがですよね。
きむ:今年の白樺茶の味が楽しみです。
白樺の資源を無駄なく使い切るために
きむ:白樺茶は今後、どのような展開をお考えですか?
吉田さん:白樺茶の次の展開としては、6包入りパックの販売をスタートしています。当初は1パック10個入りだけでしたが、昨年、ティーバッグ3つ入りの少量パックをテスト販売したら非常に好評でした。ちょっとしたお土産やお試し用として買ってくださる方が多かったようです。
きむ:試しやすいですよね。
吉田さん:あとは、長野県東信を代表する商品、お土産品として多くの人に手に取っていただけるよう、取り扱っていただける店舗を増やしていきたいとも考えています。
きむ:実際に白樺茶が飲める飲食店が増えるのも嬉しいかも。
吉田さん:そうですよね。白樺茶を提供する飲食店も増やしていく予定です。
きむ:白樺茶のさらなる広がりが楽しみですね。
吉田さん:白樺は荒地に森の土壌を作り、パイオニアツリーと呼ばれることからも、潜在能力のある樹木だと思っているんです。開発段階ですが、白樺の枝や樹皮からとれる蒸留水が化粧品に活かせるのではないか、という構想もあります。
きむ:サウナでととのった後の白樺化粧水、肌も喜びますよ。
吉田さん:白樺がますます有効活用され、保全を進めるためにも、白樺茶の安定した製品化と販路拡大を目指していきます。
きむ:楽しみですね。
吉田さん:白樺茶を通し、白樺の資源を無駄なく使い切るという私たちの使命を果たしていきたいと思っています。
きむ:あぁ、サウナでととのって、白樺茶を飲みたい!白樺茶がますます多くの人に届くよう応援しています。今日はありがとうございました。
信州白樺クラフト製作所
Website:https://shirakabacraft.com/
住所:長野県北佐久郡立科町芦田八ヶ野1026
メールアドレス:toiawase@shirakabacraft.com
<聞き手>
きむくみ
コワーキングスペースのような研究所「Gokakab」にいる人。教育、ライティング、エディターなどを経て、現在は飲食事業・コワーキングスペースの運営に携わる。会社の敷地内にサウナ小屋を作ったことをきっかけに、サウナ関連プロジェクトにもかかわっている。